会長あいさつ President's message

日本マス・コミュニケーション学会
会長 吉見俊哉

このたび、第37期会長に就任することとなりました。これから2年間、この学会が積み重ねてきた伝統の重さ、小野秀雄先生を原点とする大先輩の先生方のご努力と達成に向き合いながら、日本のメディア研究がいかなる方向に進んでいくべきかを見据え、全力でこのプラットフォームのさらなる改革に取り組みたいと考えています。

思い返せば、私が東京大学新聞研究所に助手として採用されましたのは1987年で、その翌年、新聞研究所の一室で学会事務局幹事をさせていただきました。当時、私は何もわからず事務をこなしていただけでしたが、学会としてはちょうど新聞学会からの名称変更が提起され始めていた頃でした。

それから30年、私たちのメディア環境は根本的な変化を経験しました。その最大のモメントは、いうまでもなくインターネットの発展です。30年前、1980年代にこれほどまでのドラスティックな変化を予測することはできませんでした。まだ、新聞、放送、出版のマスコミが全盛で、ニューメディアといえばCATVが筆頭に来る時代でした。しかし歴史の変化は、その10年後の90年代末頃から劇的なスピードで生じていきます。

それはつまりネット化であり、モバイル化であり、グローバル化でした。そしてこれらの変動の根底をなしてきたのがメディア技術の革新と普及です。今日、世界のITを支配しているGoogleやAmazon、Twitter、FacebookからYouTubeまでの企業は、1980年代にはまだ影も形もありませんでした。

しかし今日、地球社会の未来をこれらの企業のことを考えずに想像することはできません。社会現象面でも、フェイクニュースやフィルターバブルから電子マネー、MOOCsをはじめとする遠隔教育等々、メディアはいまだかつてない規模で、私たちの生活に入り込み、私たちの意識を変えています。

だからこそ、社会的な媒介過程としてのメディアを、またそのメディアに媒介された社会を、実証的、批判的、理論的、歴史的に探究していく〈メディアの知〉が、今日ほど求められている時代はないはずです。

創立からすでに70年、ジャーナリズムとコミュニケーション、メディアについての専門的知性が集まる日本最大の研究者集団である本学会には、このような社会の期待に応えていく使命があります。私たちは、高度にメディア化した社会における学問的知性をリードすべきであり、ここにこそ本学会の歴史的使命とポテンシャルがあるのです。

しかし現状は、こうした社会的期待に十分に応じていける体制ができているとは言えません。学会員数は、2000年代初頭に1,400人を超えて以降、漸減し続けています。本来、メディア関連の研究領域の劇的拡大から考えるなら、本学会には2,000人を超える会員がいても何ら不思議ではありません。春秋の研究大会の個人・共同研究にしても、もっと多数の若手による研究発表が林立しているべきなのではないでしょうか。研究発表会の根本は、会員による個人・共同研究発表の多様性やアクチュアリティにあるはずです。

私は2年間の学会長任期を、何よりもこの現状と社会的使命のギャップを埋めることに使いたいと思います。そのため、次の3つの方針を柱に改革を進めるつもりです。

第1は、若手の参加拡大を困難にしているあらゆる障壁を撤去することです。すでに若手から指摘の出ている予稿集の問題はその典型だと思います。他にも、今、世界の若手研究者がメディアと社会の関係を考える上で重要と感じているあらゆるテーマが自由かつラディカルに論じあえる開かれた場を本学会のなかに実現していくべきです。

第2は、学会の広報体制の抜本的改革です。本学会は、メディアやコミュニケーションに関わる研究者の集まりであるにもかかわらず、広報体制が時代に合わなくなっている面も見られます。これまですすめてきたデジタル化を一層加速させつつ、情報公開に適した仕組みを構築していくなど、広報上のメディアについて抜本的な改革が不可欠です。

そして第3は、本学会がカバーすべき研究領域全体の未来を見据えた仕方での学会名称変更問題への取り組みです。すでに、本学会の若手活性化のためのワーキングループからの報告でも、「現在の『日本マス・コミュニケーション学会』という名称は帯に短し襷に長し。『マスコミ』以外を対象としたメディアを排除してしまうと同時に、広告研究などの分野に特化した学会には専門性において遅れをとってしまう」との問題提起がなされています(会報第94号掲載)。

かつてまだ学会名称が新聞学会だった時代、当時の佐藤智雄会長は、「学会名称の問題も、底ではマス・メディア状況の現実とかかわりをもつ。その現実の上で、各自のめざす学問的関心領域を所属学会が吸収しうるものであるかどうかという、学会所属の、いわば正統性の問題として、一部の会員に受けとめられているとしたら、無視することはできない」と述べて、名称変更に向けた手続きを始めました。それから30年、同じ問いが改めて提起されるべき時が来ていると思います。この点について、これから全学会員のみなさんと、真摯に、かつ徹底的に議論をしていきたいと思います。

もちろん、この2年間にすべき改革課題は、以上の3つの柱に尽きるわけではありません。すでに様々に指摘されてきたように、学会誌の査読体制の改善も重要な課題です。また学会の国際化も重要で、もっとはるかに多くの報告や議論が英語でなされていくべきだと思いますし、本学会の国際的なプレゼンスも上げていくべきです。さらに、学会のジェンダーバランスを変えていくこと、つまりあらゆる面で女性研究者が力を発揮する学会にしていくべきです。

しかしながら、これらの課題はこの2年だけで解決できるとは考えていません。前述した3つの中核課題について本格的に取り組んでいくことが、残りの3つの課題を少しずつでも改善していく足がかりになると考えています。これから2年間、若手の障壁の撤去、ウェブ広報の革新、学会名称変更のための議論に全力で取り組みますので、どうかご協力をよろしくお願い申し上げます。

(「会長就任にあたって」『日本マス・コミュニケーション学会 会報』第300号(2019年9月10日発行)掲載)