第37期13回研究会 「理論を使う-大学院生のための研究のメチエ」(理論研究部会) Applying Theory to Empirical Research: Metier for Studies

理論を使う-大学院生のための研究のメチエ

日時:2021年5月8日(土) 14時~16時

方 法:zoomによるオンライン開催

報告者:佐藤彰宣(流通科学大学)

討論者:長崎励朗(桃山学院大学)

司 会:山本昭宏(神戸市外国語大学)

趣 旨:

研究論文を書こうとしている大学院生、あるいは大学院への進学を考えている学生にとって、理論や方法論を研究のなかにいかに活用していくのか。今回企画する研究会は、第一線で研究活動を行っている研究者と、これから研究をめぐる界(champ)に足を踏み入れていこうとする研究者との議論の場を通して、理論的に思考することの意義を考えることを目的としている。理論研究や学説研究という領域はもとより、実証研究においても理論は内在的に必要であり、そして理論的関心が他の研究分野との知や問題関心の交流をもたらすことはいうまでもない。

今回は、博士論文をベースにして『スポーツ雑誌のメディア史-ベースボール・マガジン社と大衆教養主義』(勉誠出版)を上梓した佐藤彰宣氏を報告者に招請し、著者自身に実証的研究の過程で理論や方法論をどのように活用したのかを紐解いてもらう。スポーツ雑誌と戦後の大衆教養主義との関連をフォーカスした本書は、どのような問題意識や発想から研究に着手したのか、その際にどのような理論的枠組みや方法論と対話したのか。また、報告者の佐藤氏は、『趣味としての戦争--戦記雑誌『丸』の文化史』(近刊)を上梓する予定で、前著と近刊書との連続性や違いなども論点になろう。研究会では、討論者の長﨑励朗氏との対話をきっかけに、議論を参加者へと広げていく。

また、今回の研究会は、大学院生だけでなく多くの研究者に参加してもらい、研究の交流の場となることも企図している。

■申し込み方法 

参加をご希望の方は、5月6日(木)17時までに理論研究部会・佐幸宛(sako.shinsuke@nihon-u.ac.jp)に氏名・所属をご連絡ください。

前日(5月7日)17時までに送信元のメールアドレス宛にZoomへの接続情報などをご案内します(未着の場合は佐幸までご一報ください)。

開催記録

記録執筆者:山本昭宏(神戸市外国語大学)

参加者: 21名(Zoom利用)

報告:

佐藤彰宣氏(流通科学大学)による報告は、自身の研究履歴をふりかえる形式でなされた。

佐藤氏は、主に雑誌を資料として扱うメディア史研究者である。大学院生時代から「理論」をいかに意識し、自身の研究に取り入ようと試みてきたのか、自身の読書遍歴をふまえながら説明する報告だった。そこで言及された研究は、シャルチエや永嶺重敏、佐藤卓己らの「読書の社会史」とでも呼ぶべき研究、竹内洋や福間良明らの「教養主義」研究、パットナムやゴフマンらの「趣味のコミュニティ」研究などである。対象に深く入る文献調査の研究を行ってきた経験から、資料分析を通して理論を再解釈するための展望を述べた。

討論:

 次に、長崎励朗氏(桃山学院大学)と佐藤氏との間で、クロストークの形式で討論が行われた。「大学院生のための研究のメチエ」という趣旨にそって、長崎氏は、研究に取り組む際に「理論が先か対象が先か?」「理論と査読をどう両立したか?」という実践的な問いから討論の口火を切った。その後、長崎氏が「そもそも理論をどういうものと捉えているか?(解釈枠組みを指すのか概念を指すのか、あるいは社会理論を指すのか)」という問題に踏み込んだところで、全体討論へと移った。

全体討議:

 フロアも交えた総合討論では多様な論点が出されたが、ここでは以下の二点に整理する。

第一に、「受け手研究」の必要性と理論的意義である。これは、佐藤氏が挙げた読者共同体論と趣味の共同体論の可能性を、「参考にした」という言葉ではなくて、より明確に言語化するとしたらどうなるか、という問いでもあった。

 第二に、社会理論と歴史研究・メディア史研究との関係性である。狭義の歴史学が有する実証主義と、抽象化・一般化をはかる広義の「理論」を架橋する方法(あるいはそれに成功した例)について、議論がなされた。

そのほか、竹内洋、佐藤卓己、キットラー、マクルーハンなどの方法の批判的継承についても話題は及んだ。

総じて言えば、歴史研究と理論の関係をめぐる議論を通して、その限界と可能性を共有できた研究会だったと言える。総合討論では、発言者が自身の研究姿勢を開陳する局面も多く、その点を大学院生がいかに研究に活かしていくのか(あるいは厳しく批判を受けるのか)、今後が楽しみである。

なお、本研究会は、サブタイトルにあるように大学院生に対して研究の方法や課題を示すという目的もあった。研究会終了後、大学院生との交流とさらなる質問への応答のため、意見を集約するフォームをWeb上に作成した。