第36期12回研究会「メディア業界出身の政治家――歴史社会学的検討」(メディア史研究部会企画)

メディア業界出身の政治家――歴史社会学的検討

メディア業界出身の政治家――歴史社会学的検討

日 時:2019年1月26日(土) 14:00~17:00

場 所:同志社大学新町キャンパス 臨光館(R)207教室

報告者:森暢平(成城大学)、山口仁(帝京大学)

司 会:河崎吉紀(同志社大学)

趣 旨:

この研究会では、メディア業界出身の政治家について歴史的な動向を検討したい。『新潟新聞』主筆を勤めた尾崎行雄や、『郵便報知新聞』で記者を経験した犬養毅など、キャリアの出発点においてメディアに関係した政治家がいる。また、ジャパンタイムズ社長だった芦田均や、東洋経済新報社長でジャーナリストの石橋湛山はのちに首相となっている。これまでメディアと政治の関係は紙面や番組といった内容を中心に言及されることが多かったが、ここでは人材の輩出という点に着目する。

手がかりとして2018年11月に刊行された佐藤卓己・河崎吉紀編『近代日本のメディア議員――〈政治のメディア化〉の歴史社会学』を取り上げる。メディア業界に関連する衆議院議員を、1890年の第1回総選挙から1990年の第39回総選挙まで100年間おいて洗い出し、「メディアの論理がメディアの枠を超えて、政治の制度、組織、活動にまで影響力を強めていくプロセス」という政治のメディア化を、人材供給の側面から考察したものである。

報告者として、ジャーナリストとしての経験をもち、戦前の記者倶楽部やジャーナリスト教育について詳細な研究実績をもつ森暢平会員と、社会学的な視座からジャーナリズムを理論的に考察してきた山口仁会員から、上記研究成果を批評していただき、メディアと政治の関係について理解を深める機会を設けたい。

会の記録

記録執筆者:河崎吉紀(同志社大学)

参加者数 :24名

報   告:

この研究会では、メディア業界出身の政治家について歴史的な動向を検討した。たとえば、『新潟新聞』主筆を勤めた尾崎行雄や、『郵便報知新聞』で記者を経験した犬養毅など、キャリアの出発点においてメディアに関係した政治家がいる。また、ジャパンタイムズ社長だった芦田均や、東洋経済新報社長でジャーナリストの石橋湛山はのちに首相となっている。これまでメディアと政治の関係は紙面や番組といった内容を中心に言及されることが多かったが、人材の輩出という点に着目した。

手がかりとして 2018 年 11 月に刊行された佐藤卓己・河崎吉紀編『近代日本のメディア議員──〈政治のメディア化〉の歴史社会学』を取り上げた。メディア業界に関連する衆議院議員を、1890年の第1回総選挙から1990年の第39回総選挙まで100年間において洗い出し、「メディアの論理がメディアの枠を超えて、政治の制度、組織、活動にまで影響力を強めていくプロセス」という政治のメディア化を、人材供給の側面から考察したものである。

報告者として、ジャーナリストとしての経験をもち、戦前の記者倶楽部やジャーナリスト教育について詳細な研究実績をもつ森暢平会員と、社会学的な視座からジャーナリズムを理論的に考察してきた山口仁会員から、上記研究成果を批評していただいた。

まず、森会員からは、政治がメディア化される時期区分について、記者が職業として専門化する過程と、商業化が進む過程は表裏一体であり、その点を分けて論じることに疑問が投げかけられた。また、歴史的な事例として京都府丹後地方の政治家を取り上げ、現実の地域のあり方をふまえた考察の必要性や、政治の論理によって運営されるメディアが理想的かどうかを問い直す姿勢について言及があった。そのほか、報道を中心とした新聞において、政治部記者が議員へ転身する理由を、メディア側の視点だけでなく、政治家や選挙区の事情といったほかの要因からも捉えることができるのではないか、との指摘がなされた。

次に、山口会員は自身の研究手法を振り返るなかで、メディア史というアプローチが、事実を基礎に現在を相対化して議論に共通の土台をもたらす可能性があると述べ、そのうえで、政治に影響を及ぼすメディアの論理をメディアの領域、メディアの資本、メディア業界人としてのハビトゥスなどに分解して考察できることを示した。つまり、メディアの論理が通用する領域と、そこで活動していくための「資本」として機能するもの、メディアの論理を身体化した業界人という形に整理することで、さらなる分析の糸口がつかめることを明らかにした。また、メディアの領域とほかの領域との相互作用に目を向けることの重要性にも言及し、それゆえにメディアの論理には不確実性も残されていることなどが指摘された。

執筆者からの返答も含め、報告者の批評に応じる形で活発な意見交換がなされた。「政治のメディア化」や「特ダネ主義」といった概念の検討や、自らがメディアを駆使して世論に訴えかけるパフォーマンス型の議員についての考えが披露され、また、統計によって得られた知見だけでなく、個別の事例に踏み込んだ研究が必要とされていることなどが確認された。