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第32期第7回研究会「オーストラリアのジャーナリズム:経済的側面からの変容」(国際交流委員会企画)終わる

日 時:2010年5月26日(水) 18:00〜20:00
場 所:上智大学中央図書館 L-914会議室
報告者:Rodney Tiffen(シドニー大学名誉教授)
司 会:鈴木雄雅(上智大学)
参加者:17名
記録執筆:鈴木雄雅

報告者のR.ティッフェン・シドニー大学名誉教授は、同国のマス・メディア研究の先駆者であった故ヘンリー・メイヤー教授に師事し、長年にわたりオーストラリアのメディア研究の第一人者として教育、研究に携わってきた。

まず、最初にオーストラリア、日本を含めた18 カ国の国際比較の資料をもとに世界的に新聞の発行部数が減少している傾向を示した。なかでもオーストラリアの落ち込みは激しい。それに伴うよに大都市では、オーストラリアの人口が増え続け2千万人を超えているにもかかわらず、夕刊紙を含めて、新聞紙数も減った。またマードック系とフェアファックス系の二大グループが86.4%を占める寡占化状況であることも特色である。オーストラリアでは首都キャンベラよりも、シドニーやメルボルンのほうがメディア状況は活発である。オーストラリアの放送は公共放送と商業放送だが、1人あたりの公的支出と収益を比べると、収益のほうが高い(日本は同じ)。世界的にはインターネットの登場によりメディア広告が減少しているが、テレビがもともと公共放送から出発した国は新聞広告が占める割合がまだ高い。しかしながら、それらは国によって差はあるにしても、既存のメディアが危機に向かっていることを示している。逆戻りにはない。メディア自身も分かっている。

その結果、メディアは合理化、コストカット、収益性の増加にやっきとなっている。例えば、オーストラリアのニュース番組(商業放送)はこの年間で12.4%から9.2%に減った。そうした傾向は次の3 の悪影響を及ぼす。第1に合理化により首切りや人員・給与の削減は働くひとの士気の低下を低める。第はその結果、コンテンツの品質が下がり、消費者はそこから立ち去ることになる。第3にジャーナリストにより圧力がかかり、ジャーナリストが十分な調査報道に時間をかける余裕がなくなり、発表ジャーナリズムに依存することになる。そして民主主義の根幹が脅かされることになる。

他方、こうした悲観的見方に対し、インターネットは歓迎すべきメディアであり、恐竜の滅亡とどれほどの違いがあるのか、という楽観的な見方もある。確かに多様化、多元化が進むが、民主主義の観点から3つの疑問がある。今後、既存メディアが行ってきた大規模な報道=NYタイムズイラク戦争報道に800万ドル費やした=を今後どれほどできるか。ネットの進展により対話が進むというが、実はディスコミュニケーション状況化(バベルの塔)になってしまうのではないか。多様化が進む結果、互いに共通する土壌がなくなってしまうということだ。偏見や差別がより強化されるという危惧がある。

以上の報告ののち、参加者との質疑応答が行われた。通訳は佐藤綾子会員にお願いした。